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映画「はやぶさ 遥かなる帰還」感想




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 映画大手3社が競作した「はやぶさ」映画の第二弾が東映60周年記念作品となった「はやぶさ 遥かなる帰還」です。この映画はノンフィクション作家・山根一眞のベストセラー『小惑星探査機はやぶさの大冒険』を原作に、「犯人に告ぐ」「星守る犬」の瀧本智行監督が、渡辺謙さんを主演に迎えて制作されました。

渡辺謙さんは、俳優として主演しただけではなく、映画の製作から公開までのプロジェクトマネージャーとしても兼任されています。

撮影場所には、実際の「はやぶさ」打上げの地、鹿児島・内之浦宇宙空間観測所や、カプセル降下地点のオーストラリア・ウーメラ砂漠などで行なわれ、忠実に再現されています。そして最新鋭のVFX技術で再現される深宇宙は圧巻の映像を作りだしています。

 

「はやぶさ 遥かなる帰還」概要

2003年5月9日。小惑星探査機“はやぶさ”を搭載したロケットが鹿児島県内之浦観測所から飛び立つ。その最大の目的は、小惑星“イトカワ”へ行き、太陽系の起源、地球の起源を探る手がかりとなる石や砂を持ち帰ること。しかしそれは、世界でも例のない困難なミッションへの挑戦でもあった。

ロケットを見守る“はやぶさ”プロジェクトマネージャーの山口駿一郎教授(渡辺謙)や新聞記者の井上真理(夏川結衣)たち。2004年5月、“はやぶさ”は地球の重力と交点速度を借りて方向転換とスピードアップを行なう“地球スウィングバイ”、7月には“イトカワ”の撮影に続けて成功。真理はカプセル担当の鎌田悦也(小澤征悦)や広報担当の丸川靖信(藤竜也)などプロジェクトチームの取材を続ける一方で、疎遠になっていた町工場を営む父、東出博(山崎努)と会う。妻を亡くして仕事も減った父を心配しながらも、シングルマザーとして働く真理は、父との距離を埋められずにいた。

その後も様々な困難を乗り越えた“はやぶさ”は、2005年11月に“イトカワ”のサンプル採取に成功。だが、化学エンジンの燃料が漏れ、姿勢制御も不能になる。藤中仁志(江口洋介)と森内安夫(吉岡秀隆)は、イオンエンジンの燃料噴射によって姿勢制御に成功。危機を脱したものの、姿勢制御に時間を要したことで地球への期間が予定より3年延びてしまう。さらに通信途絶やイオンエンジンのトラブルなどが重なり、2009年11月に最後のイオンエンジンが停止。最大の危機に直面した時、山口はリーダーとして決断する。“はやぶさ”を地球へ帰す。

決意を同じくした藤中と森内は、イオンエンジンに最後の指令を送った。満身創痍になりながらも地球へ帰還しようとする“はやぶさ”のため、チームの技術と想いがひとつになる。そして真理と父親に間にも、“はやぶさ”の帰りを願う気持ちが絆を結ぼうとしていた……。 【キネマ旬報データベースより】

映画の感想

20世紀フォックス版の『はやぶさ/HAYABUSA』が、「はやぶさ」を擬人化させて、親しみやすく丁寧にこのプロジェクトの全体像や専門用語などを事細かに説明してくれていたのに比べて、東映版の本作品は「物づくり」に懸ける男達の本格的ヒューマンドラマを「プロジェクトX」を思わせるドキュメンタリータッチで描かれています。同じ「はやぶさ」という題材でも描く人が違うと、全く違う作品が出来上がります。まさに「男のドラマ」と言えます。

渡辺謙さんの熱意が他の役者に伝染するように熱気を帯び、ピリピリとした緊張感がドラマを迫真に迫られています。渡辺謙さんの熱演の他にも、吉岡秀隆さんや江口洋介さんの、胸に迫る熱い男達の演技がこの映画の見所ではないでしょうか。

この映画が映している物は、 技術立国と言いながらも実は相当厳しい状況に置かれている、日本の最先端技術を支える零細企業と宇宙航空学の現実です。

冒頭から、鹿児島県内之浦宇宙空間観測所の苦境を表現するべく、山口プロジェクトマネージャーが、割れた床のベニヤ板をガムテープで補修するなど、 日本のおかれている宇宙航空学の窮状が見事に描かれています。

そしてこの描写が、不安定な時代の日本人に自信と勇気を与え元気にしてくれます。小さな町工場の職人達の「物づくり」への拘りが、日本の技術の水準の高さを支え、NASAの10分の一程しかない予算の中で、苦しみながらも支え合い、揉まれながら成果に繋げる、日本人の底力を見事に表現しているのです。

オープニングロールで、「はやぶさ」本体内部の基板や部品がクローズアップされていますが、これは「縁の下の力持ち」的存在である、無数の無名の関係者達への敬意として表現されています。

役者さん達の演技が絶妙であることもそうですが、役割の分配も見事に采配されています。「はやぶさ」プロジェクトのJAXA・総責任者山口駿一郎(渡辺謙)、エンジン担当の研究者である藤中仁志(江口洋介)、藤中の仲間で今は民間企業(NEC)に籍を置く森内安夫(吉岡秀隆)、宇宙事業の取材記者井上真理(夏川結衣)、カプセル担当の鎌田悦也(小澤征悦)、町工場の経営者で井上の父(山崎努)などの登場人物が、それぞれにキャラクターが鮮明に役割を与えられていて、それに役者がきちんと応えています。

「はやぶさ」のストーリーと、それを支える人々のストーリーのバランスが絶妙で、そもそもの脚本が洗練されたものなのではないでしょうか。不必要な恋愛を絡ませたり、特定の人物のみがクローズアップされたりすることもなく、ワンシーンが長過ぎたりすることもなく、監督と渡辺謙さんのこの映画に対する意欲と誠実さが伝わってくるような、優れた作品に仕上がっています。

細かい所ですが、渡辺謙さんと山崎努さんの絡みには感慨深いものがありました。ふたりが一緒にかりんとうを食べながら宇宙への想いを語るシーンでは、どこかで見た2人のシーン(タンポポ)を思い出してしまいました。

また、映像ですが、 VFXの技術を使った宇宙の表現は、フォックス版「はやぶさ/HAYABUSA」を凌ぐほどのクオリティが高い出来映えです。Blu-ray版で映画を見ましたが、できれば映画館で見たかったです。それほど素晴らしく宇宙が表現されていました。

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この映画の公式サイトには、「はやぶさ」を支えた100以上の協力企業がプロジェクトサポートチームとして紹介されています。この一覧を見ると、どれほどこのプロジェクトには縁の下の力持ちが存在するのか、改めて再認識されました。

http://www.hayabusa2012.jp/special/others.html

この映画からは、JAXAのメンバー達や民間企業の情熱を感じるだけではなく、監督や渡辺謙さんをはじめとする、映画スタッフの愚直な情熱が伝わって来るほど、秀作に出来上がっていました。エンドロールは必見です。映画を見た際には必ずエンドロールを見る事をお勧めします。

映画制作スタッフ

 

監督:瀧本智行

原作:山根一眞「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」(マガジンハウス刊)

脚本:西岡琢也

協力:宇宙航空研究開発機構(JAXA)